「リスクアセスメント(Risk assessment)」とは、工事現場におけるリスク、すなわち危険性や有害性を特定し、これを低減または除去するための手法のことを指します。
平成26年の労働安全衛生法が改正において、一定の危険有害性のある化学物質の製造や取扱いを行う場合には、業種や事業の大小に関わらず必ずリスクアセスメントを実施することが義務づけられています。そのため、建築業、建築工事(現場)においても労働安全衛生法に基づき、災害の恐れや事故などの危険性といったリスクを取り除くために労働災害防止対策を実施する必要があるのです。
◎リスクアセスメントによる効果とは
建設工事(建築・解体・設備・電気)においてリスクアセスメントを実施すると、現場のリスクを明確にすることができ、そのリスクに対する認識を作業員同士で共有することができます。また、リスクの見積り結果を踏まえて、どういったリスクを先に対応するべきかなど安全衛生対策における合理的な優先順位を決めることができます。
作業員の安全への意識を高めるためにもリスクアセスメントは非常に効果的です。事前に危険性や有害性の有無を認識することで、現場に残されているリスクに対してもルールや決めごとを守ろうという意識を徹底することができるようになります。
他の業界や産業にくらべ「建設業」は重層請負構造といった特徴があることから、事業主のみならず元方事業者による現場の統括管理の実施や、安全衛生責任体制を確立させることが求められています。
事業主は現場で働く作業員全員の安全を確保するために、安全で安心して働ける環境を整える必要があります。安心して働くことのできる環境を提供するということは、作業中に起こり得る危険性や災害といった不安要素、すなわちリスクを事前に調査してそれらのリスクを未然に防ぐ、または取り除くといった「リスクアセスメント」の実施が必要不可欠だとされているのです。
■作業開始前の危険予知ミーティング
建築業では、個人企業であれば事業主が個人で、法人であれば法人事業主が現場の統括管理の実施や安全衛生対策を行うことが求められています。
そこで実施されているのが「作業開始前の危険予知ミーティング」です。リスクアセスメントの効果をより高めるためには、効果的なリスクアセスメントを実施することはもちろんのこと、現場で働く労働者皆が作業中に起こりやすい危険性を自ら考え予防できるようになることも大切なことだからです。
危険予知ミーティングでは、建築作業開始前に考えられる事故や起こりうる災害といったことを想定し、これらの問題をどのように解決するのか、そして災害を未然に防ぐためにはどうしたら良いのかといったことに関して想像力を働かせます。このように危険を想像することから、災害が起きないようにするための防止対策を考えることができるようになるのです。
■リスクの見積りについて
建築工事(現場)で多発する事故に多いのが作業場からの転落や墜落、それに巻き込まれや物の落下による怪我などです。これらの事故に関わらず、各工程によって起こりやすい事故が非常に多いといったことが大きな問題になっています。
このような事故や災害から作業員の身を守るためには事前に危険性や有害性を調査し、それらの事象が起こりやすい場所や作業を特定することが重要なのです。危険性や有害性を事前に把握できれば、それに伴い「リスクの見積り」を講じることができます。
リスクの見積りでは作業工事(現場)をあらかじめ決められた区分基準に沿って、各事象を災害に発展する可能性、そして災害が起きたときの怪我の程度といったように区分します。その次に、これらの二つの基準で区分した結果をもとに可能性や重篤度を「重大」、「中程度」、「軽度」といったようにリスクレベル、すなわち優先順位を判定します。
リスクの見積りを実施する際には可能性や重篤度を示す見積表がないと、どのリスクに対しても採点が高くなってしまい、結果的にどのリスクが優先されるべきかが分からなくなってしまうことがあります。
■建築工事(現場)におけるリスクアセスメントを実施すると・・・
危険性や有害性を調査してリストアップすると、実に多くのリスクが作業現場に潜んでいるといったことが分かるはずです。さらに、建築業に関しては他の業種とは異なり、毎回現場の状況も違いますし作業内容も一定ではありません。また、重層請負構造といった特徴をしていることから、依頼を請け負った元請事業主の下にはさらに複数の下請け業者が作業を行っています。そのため、これらすべての作業内容や作業員に関するリスクを把握するのは非常に困難です。
たとえば、一つの現場でリスクアセスメントを実施したところ数百個といった膨大な数のリスクが挙げられることがあります。これらのリスクに対して対策を施そうと思うと現場の予算では到底間に合いませんし、経済的な面でリスクをカバーするのは現実味がありません。
そのため、数あるリスクに対してどのような低減措置の実施を行うかといえば、それはやはり措置実施の優先度を決めることが大事になるのです。低減措置の方法として、まずは本質的な対策を行うことから始まり、その次に工学的な対策、管理的な対策、最後に保護具の使用に関する検討を行います。リスクの低減措置を優先度の高い物から始めますが、そのあとには残留リスクがあることから、これらリスクに対してはリスクアセスメントの実際項目の一部に記録し、作業員がいつでも確認できるように周知して自ら安全面に配慮した作業ができるように徹底することが大事になります。
建設業の現場や作業場には大怪我や災害といったいくつもの危険が潜んでいることから、労働者の安全や健康を守るためには建設工事(現場)においても効果的なリスクアセスメントの実施が進められています。
以下は、建設工事(現場)におけるリスクアセスメントに関するよくある事例についてご紹介します。
「脚立や足場から落ちそうになった」
建築工事の現場では、脚立や足場から「落ちそうになった」という落下事故リスクが非常に高いとされています。重い資材を持ち上げた状態で脚立や足場にあがり、足元が足場からずれてしまい落ちそうになったということです。
こういった危険性や事故に対してリスクアセスメントを実施する場合は、事故の原因を探り、原因やリスクを未然に防ぐための防止策を講じることが大切になります。
まず、脚立や足場から落ちそうになった原因は足場となる部分が狭く手すりの設置もないこと、そして作業による疲れも出ていたことにより足元がふらつきやすかったということに問題があります。このような原因を未然に解決するためには足場の幅を広く、尚且つ手すり付ける、重い資材をあげたり高い部分で作業したりする際には安全帯を使用するなどして対策を図ることが大切になります。
建築業は数ある業種のなかでも特に事故が多発するといわれる作業が多いことから、今回ご紹介したような「リスクアセスメントの実施」に関しては今後も必要不可欠なことであることは明確です。工事の元方事業主がリスクアセスメントの実施をすることはもちろん、作業場全体でリスクに対して試行錯誤を繰り返し労働災害防止のための努力を続けることがとても大切なことだといえるでしょう。